この記事の要約

介護業界は誕生してからまだ間もない業界ですが、超高齢社会の影響もあり、需要過多の状態が続いています。人手不足のため、介護業界での経験がない方であっても、マネジメント業務など、管理職に必要な業務の経験があれば、非常に有利に支配人候補として転職可能です。施設種別などにもよりますが、介護施設の支配人は資格などが不要な場合も多くあります。異業種での支配人としての経験を活かしつつ、介護施設の支配人候補として、転職を検討してみてはいかがでしょうか?

支配人など、管理職としての経験を、異業種で活かせないかと悩んでいませんか?新型コロナウイルス感染症などで大きな打撃を受けた業界も多い中、介護業界は安定して需要がある状態が続いています。

本記事では、介護業界の動向をはじめとして、他業界でのマネジメント経験などを活かしながら介護業界の管理職候補としてキャリアチェンジするための基本情報をまとめました。本記事をきっかけに、介護業界への転職に興味を持っていただけたら幸いです。

介護業界の特徴

介護業界は、2000年の介護保険制度スタートに伴い誕生した業界であり、歴史はまだ浅い業界です。人件費には介護報酬など、決められた額が充てられる仕組みとなっているため、介護業界において、短期間で大きく給与が上がるケースはあまり多くありません。

しかし、業界動向サーチによれば、業界の伸び率は全190業界中18位と比較的上位であり、日本の超高齢社会の現状も相まって、需要は今後も高いまま推移すると予想されます。人手が足りず需要過多であるため、業界未経験の方であっても、介護に必要な経験を積んでいる方であれば、非常に有利に転職できる業界ともいえるでしょう。

介護施設の法人格について

介護施設は社会福祉法人や株式会社など様々な法人・企業が運営を行っています。主な法人は社会福祉法人・医療法人・株式会社の3つです。3つの法人の他に、ごくわずかながら、社団・財団法人、協同組合、特定非営利活動(NPO)法人なども介護・福祉事業を行っている場合がありますが、大きな規模の介護施設の場合は、上記の3法人のいずれかが運営している場合がほとんどでしょう。以下にそれぞれの法人について概要を記載します。

社会福祉法人

「社会福祉事業を行うことを目的として、この法律の定めるところにより設立された法人」と定義されている、民間の非営利法人です。利益よりも人々の役に立つことを優先する立場で、公益性の高い社会福祉事業を行うことが求められています。

また、現存する特別養護老人ホームの95%は社会福祉法人によって運営されています。

医療法人

こちらも非営利法人です。医療法に基づいて設立され、病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設することを目的としています。

介護施設の種別で言えば、老健を運営している場合が多く、医療法人が運営する介護施設の多くは病院との連携がしっかり取れています。

株式会社

介護施設は、株式会社でも運営できます。株式会社は、医療法人や社会福祉法人と違い、利益を求める営利法人です。どのようにして利益を上げるか?というポイントも非常に重要になってくるでしょう。

近年では医療・福祉分野の法人に限らず、異業種の法人も続々と介護福祉事業に参入しています。異業種ならではの強みを活かした介護サービスを提供している法人が多いことも特徴です。

介護施設の種類

続いて、介護施設の種類を一覧表で見てみましょう。

介護施設の種類 概要
介護付き有料老人ホーム 介護度に応じて、介護サービスを受けながら生活できる。
住宅型有料老人ホーム 自立した生活を送れる方~少し介護が必要な方が多い。状態に合った介護サービスを自分で選択して受けることができる。
サービス付き高齢者向け住宅 介護が不要な方から入居が可能。見守りサービスなどがある高齢者向けの賃貸住宅。
グループホーム 認知症の診断を受けた方が入所できる施設。
特別養護老人ホーム 介護度3以上の方が対象の介護施設。
介護老人保健施設 在宅復帰を目指してリハビリを行うことが目的の介護施設。
介護医療院 長期間にわたり、医療的ケアが必要な方向け。病院の療養病床などがこれにあたる。
ケアハウス 低所得で1人暮らしをしている方が対象の施設。

とても簡単な解説ですが、全てを理解する必要はありません。どのような施設があるのか、大まかに把握しておきましょう。

介護施設における支配人のポジション

これは組織図の一例です。

法人・企業によって、置かれている役職に違いがあるため、組織の全体像は様々です。どの法人も組織の全体図は用意してあるはずなので、採用が決まった際は、直接確認してみることをおすすめします。

支配人は、その施設のトップであり、各部署と連携をとりながら、全体を把握することが求められるポジションです。複数の施設を持っている大規模な法人であれば施設の責任者として、代表者会議のような機会に出席することもあるでしょう。

支配人の仕事内容

続いて、介護施設の支配人の仕事内容について解説します。支配人は、いわゆる管理職のポジションですが、高齢者施設の管理職は、施設によって呼び方が異なります。支配人のほかに、管理者、施設長などとも呼ばれ、業務の範囲も施設種別や法人によって多少違いがあることが多いでしょう。支配人という役職をおいているのは、株式会社が運営する有料老人ホームが多い印象です。

支配人の仕事は施設全体を把握し、マネジメント業務を行うこと。人・モノ・金の管理全般が担当業務となるため、副支配人などを1人置いて、役割を分ける場合もあります。

具体的な仕事は以下のとおりです。

支配人の仕事①:施設運営のマネジメント

理念や経営方針に沿ったサービス提供ができているかなどを確認し、サービスの質の維持・向上に務める責務があります。また、外部への営業や広報活動などが必要となる場合もあるでしょう。求められる仕事の範囲は広く、勤める法人(または企業)や施設種別によって具体的な内容は異なりますが、どのような施設に勤務される場合であっても、施設全体を客観的に把握する力が求められることは間違いありません。

支配人の仕事②:人材のマネジメント

施設で働いている職員の管理も大切な仕事の1つです。人員配置基準通りに職員を配置できているか、研修を受けさせるなどして、職員のレベルアップを図る必要があるか、などを把握し、適宜改善していきます。

また介護業界は人手不足が常とも言われているため、離職に繋がらないよう、職員間のトラブル防止にも気を配る必要があるでしょう。

支配人の仕事③:収支のマネジメント

介護施設の支配人は、利用者さんとの契約や国保連への介護報酬の請求・利用者さんへの自己負担分請求を行うことで事業収入を把握しなければなりません。

また、人件費や必要経費などの支出管理も併せて行うことによって収支全体を総合的に管理します。

さらに、介護保険サービスは、ほとんどの施設で定員が定められているため事業収入がある程度限られる仕組みです。

そのため、決められた定員の中で収入を上げるために、より単価が高い要介護度利用者を集客していくなどの工夫も必要でしょう。

株式会社であれば、独自のサービスを提供し、利益に繋げるなど、利益を上げるためにできることは多種多様です。一方で、社会福祉法人などの非営利法人では制限が多い傾向にあります。それぞれの法人のルールの中で、いかに利益を上げられるかがポイントです。

ホテルや飲食業界など異業種の支配人との違い

介護業界の支配人の業務において、全体を把握して円滑に業務が回るよう運営していくという点で、他業界と似ている部分もあります。

そのため、部下を持った経験や売上管理をした経験などがある場合は、そのまま前職のスキルを活かせる場面が多いのではないでしょうか。

一方で、介護施設の支配人には介護関連の法律や行政に関する知識も必要となるため、この点においては、介護業界特有の知識や業務を習得していく必要があります。

介護業界で支配人になるには?

介護業界で支配人(施設長や管理者)になる方法は、施設種別によって要件が異なります。

医師などの資格がなければ、原則なれない施設もありますし、介護業界で働いた経験がなくても、支配人や施設長として活躍できる場合もあります。

以下に支配人になるための要件を施設種別と併せて記載していますので、ご確認ください。

施設種別 支配人(施設長・管理者)になるための要件
特別養護老人ホーム(特養)の施設長 次の3つのうち、いずれか1つ
・社会福祉主事の要件を満たす者
・社会福祉事業に2年以上従事した者
・社会福祉施設長資格認定講習会を受講した者
介護老人保健施設(老健) 老健の施設長は、介護保険法第95条により「原則、医師がなること」と定められています。しかしながら、都道府県知事の承認を得ることで医師以外の者も施設長になることができます。また、法人によっては事務長というポジションが施設長の実務を担っている場合もあります。
グループホーム グループホームの管理者は次の要件を全て満たしている必要があります。
・認知症介護に3年以上従事した者
・認知症対応型サービス事業管理者研修を修了した者
小規模多機能型居宅介護施設 ・認知症介護に3年以上従事した者
・認知症介護実践者研修、もしくは認知症介護実務者研修を修了した者
・認知症対応型サービス事業管理者研修を修了した者
その他の施設 有料老人ホームやデイサービスなどには、支配人になるための決められた要件はありません。

介護施設で働いた経験があれば間違いなく有利になりますが、支配人になるための資格が特に必要ない施設もあります。

介護業界未経験の場合は、業界に慣れる必要はあるものの、マネジメント経験や運営・経営に関するご経験があれば大いに活かすことができるでしょう。

介護業界の支配人の給与は?【求人例を紹介】

最後に、介護施設の管理職の収入についてご説明します。

令和元年度介護労働実態調査によると、介護施設の管理職の年収は500万円台が平均です。

法人格別に見ると、管理者の平均所定内賃金が最も高い法人格は医療法人で、ひと月あたり670,176円。介護保険サービス系型別では、入所型施設が月あたり446,466円で最も高く、次いで訪問系が316,992円で通所型施設が302,664円となっています。

一方で、平均賞与が高い法人格は社会福祉協議会・社会福祉法人・社団法人・財団法人で、100万円以上の賞与を支給しています。つまり、施設の運営母体によって給与は大きく異なるといえるでしょう。

調査結果からは、医療法人が運営する介護老人保健施設または、社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームなどの管理職の給与が高い傾向にあると言えそうです。

しかし介護業界未経験であり、マネジメント経験など他業種での経験を活かして転職する場合であれば、株式会社が運営する有料老人ホームでの支配人候補募集に応募するのもおすすめです。株式会社が母体であれば、施設独自の強みを活かしたサービスを展開していることも多く、これまでのご経験をより発揮しやすい環境かもしれません。

以下に複数の求人を比較して平均的な数字を記載した求人例をご紹介します。このような求人を探して、応募を検討してみてはいかがでしょうか?

求人例
  • 都内有料老人ホーム
  • 資格・介護業務経験不問
  • 年収600万円可能
  • 4週8休制

まとめ

本記事では、介護業界未経験から介護施設の支配人を目指すために必要な要件や、介護業界の動向、異業種の支配人との違いなどについて解説しました。他業種で、すでに支配人など管理職の経験があり、その経験を活かして転職を目指したい方のお役に立てれば幸いです。

コロナなどで不安定な業界も多い昨今、介護業界の需要は安定しています。慢性的な人手不足を抱える介護業界では、正社員の求人も多いため、支配人や施設長などの管理職のみならず、役職のない介護現場のスタッフとして転職する方も増えている現状です。ご自身のこれまでの経験を活かし、キャリアチェンジしてみてはいかがでしょうか?

ABOUT ME
椿 るい/現役介護福祉士ライター
介護業務に従事して9年目の介護福祉士。 介護現場でのリアルを伝えるため、Webライターとしても活動中。 特養や精神科での勤務経験を活かし、事実に基づいた「生の声」をお伝えします。また、ユニットリーダーなどの役職の経験や常勤・派遣・夜勤専従派遣といった複数の働き方の経験もあるため、介護士としての働き方や給与の問題は特に経験と知識が豊富です。