結婚・出産や親の介護などでせっかく手に入れた介護士としてのキャリアを諦めてしまう方は少なくありません。また復職したいと考えていてもブランクがある人間を雇ってもらえるのか、以前の仕事の勘を取り戻せるのかなど、再就職にあたっての不安はたくさんありますよね。本記事ではブランクがある方でも安心して介護職に復帰できるように介護業界の最新のエビデンスと仕事復帰にあたってやっておくべき前準備、さらに再就職する際に国や事業所から支給される支援金についてまとめました。本記事が介護職復帰を目指す方の参考になれば幸いです。
Contents [非表示]
ブランクがあっても介護職に復職できる?
結論から申し上げますと、例えブランクがあっても介護職に復職することは可能です。それどころか、「ブランク可」「復職歓迎」を謳っている施設は多くあります。なぜブランクがあっても介護の経験がある人は採用されるのでしょうか。それには現代日本が抱える問題と介護士という仕事の特性が深く関係しています。ブランクありでも介護職に復職できる理由について詳しく見ていきましょう。
深刻化する超高齢社会と介護人材の採用難
我が国の総人口(2021年9月15日時点)は前年に比べ51万人減少している一方で、65歳以上の高齢者人口は3,640万人と前年の3,618万人に比べ22万人増加し、過去最多となりました。総人口に占める割合は29.1%となり、WHOと国連の定義によると、日本は総人口に対して65歳以上の高齢者の占める割合が21%超えの超高齢社会に突入することになりました。
総人口に占める労働力人口の割合が低下することにより、国内市場の縮小や投資先としての魅力の低下など、経済面で様々な問題が浮上してきます。介護士の不足についても例外ではなく、2025年には介護職員が34万人不足する見込みであり、政府は国を挙げて介護人材の確保・育成及び処遇改善に努めています。
しかし現実には介護施設の採用難や離職率の高さから、介護労働安定センターが実施する令和2年度介護労働実態調査によると、従業員が不足していると回答した事業所の割合は60.8%に上りました。理由は「他産業に比べて、労働条件等が良くない」「同業他社との人材獲得競争が激しい」「景気が良いため、介護業界へ人材が集まらない」が上位3位を占めており、実際に2021年8月時点での介護業界の有効求人倍率は3.63と1人の求職者を巡って3社以上が争う状況になっています。
このように介護業界は依然として売り手市場が続いているので、採用する側も「ブランク可」としている介護施設が多いようです。
介護人材確保のために国が実施している施策
介護業界は慢性的な人手不足に悩まされているので、基本的にブランクがハンデになることはありません。介護の知識と経験を持つ人材が復職してくれたら、施設としても大いに助かることでしょう。全国老人保健施設協会が平成23年に実施した「介護職の離職後の職場復帰に関する調査研究事業報告書」によると、介護の現場から離れている「潜在介護福祉士」は20万人以上いると言われており、潜在介護福祉士の顕在化と、介護職からの流出を防ぐことが喫緊の課題とされています。後述しますが、介護士不足という社会問題を解決するために、復職にあたって様々な支援金制度が用意されているのも介護業界の特徴かもしれません。
介護職を経験したことのある人の復職の意思
ブランクがあっても復職が歓迎される介護職ですが、実際にどれくらいの方が復職しているのでしょうか。医療・介護領域における人材紹介・派遣サービス大手のTSグループが2020年に実施した「介護職の離職に関する実態調査」を見ていきましょう。
同調査によると、介護職が好きだったが退職した人の割合は67.4%に上りました。離職理由は職場の人間関係が1位、給与などの待遇の悪さが2位となり、国や事業所は急ぎ処遇改善の対策を講じる必要があることが分かります。しかし、上記の理由で離職した人でも、離職経験者の52.2%が復職済み、もしくは復職予定があることが分かりました。復職理由として、「資格・技能が生かせるから」「達成感ややりがいを感じられるから」「他の仕事と比べて自分に合っていると感じたから」など、介護職自体の魅力を挙げる声が目立ちました。様々な理由で一旦介護職としてのキャリアを諦めたとしても、一度取得した資格や技術を生かしてまた介護の現場に携わりたいと考える経験者が多いようです。
安心して仕事復帰するためにやっておくべき4つの準備
介護職を経験していたとしても、新しい環境で働き始めるのは緊張しますよね。また、以前の自分の知識や経験が今でも通用するのか不安に思う方もいることでしょう。ここでは、スムーズに介護職に復帰するために、やっておくと良い4つの前準備についてまとめてみました。順番にみていきましょう。
以前使用していた仕事メモを見返しておく
ブランク期間が長い人ほど仕事の勘を取り戻すのにも時間がかかります。経験者として入職する場合は即戦力を期待されることが多いので、仕事内容を思い出すためにも以前使用していた仕事のメモやノートを見返してみましょう。資格取得の際に使用したテキストや問題集があればまた解き直しても良いでしょう。
また、介護知識や技術は日々進化していきます。数年前までの常識が覆されているケースも稀ではないので、最新の介護事情を把握するためにも本屋などで書籍を購入して勉強し、自分の中の介護知識をアップデートさせましょう。以前の常識に囚われすぎていると、介護という医療の現場でミスが起こるかもしれません。仕事が始まるまで復習を丁寧に行い、ブランク明けのギャップを作らないようにすることが大切です。
介助技術などを実戦でおさらいしたい場合は、自治体や事業所が行っているセミナーに参加してみるのも一つの手です。無料で開催されているセミナーも多くありますので興味のある方は是非調べてみてください。
介護に関する法制度を再確認しておく
現場での介助技術が大きく変わることはそれほどありませんが、介護に関する法令の変更頻度は高い傾向にあります。ブランク期間が長いと法制度が変更されている可能性は十分にありますので、本やインターネットを活用して、自分が現場を離れていた間にどこが変更になったのか調べておきましょう。
また、余裕があれば介護・福祉に関するニュースや最近話題の新しいサービスについての情報に関してもチェックしてみてください。このような予備知識があると復職の際の助けになるだけでなく、現場での間違った対応を防ぐことにもつながりますので、日頃から介護に関する情報のキャッチアップを忘れずに行いましょう。知り合いに介護士がいるのなら、自分が現役の頃とどう変わったのか聞いてみるのもいいかもしれませんね。
体力づくりをする
一度ブランクを経験すると利用者の方の体を支えられなかったり、身体介助で思うように体を動かせないということが多く発生します。介護職は体を使う業務が中心であるため、復職にあたって体力面で不安が残る方は、普段から筋トレやランニングなどを日常的に行い、介護業務を乗り切れる体力をつけておきましょう。
また、柔軟やストレッチなどの体操も忘れずに。介護職は重い物を持ったりしゃがんだり、施設内を走り回ったりと、とにかく体を動かすことが多いので、体をほぐしておかないと怪我につながる恐れがあります。事故防止のためにも普段から体力づくりに励んだり、体に負担のかからない介助方法を勉強しておくなど工夫してみましょう。また、夜勤に不安を感じている方は初めのうちは夜勤から外してもらい、日勤帯に慣れてきたところで少しづつ夜勤の仕事を入れるようにすると体に負担がかからなくて済みます。
仕事復帰にあたって家族とよく相談をする
結婚や出産で一度家庭に入った方がブランクを経て再び働きに出る場合、仕事復帰に関して家族の理解を得ておく必要があります。外に働きに出て家にいる時間が減る分、家事や育児の分担についてよくパートナーの方と話し合い、家庭と仕事の両立ができるように体制をしっかり整えておきましょう。子どもが幼いうちは保育園などの預け先を確保しておかなければなりませんし、家族の中に介護が必要な方がいる場合は介護施設などの入所先を見つける必要があります。仕事に復帰したはいいものの、家庭全体の負担が大きくなってしまって立ち行かなくなってしまったなんてことにならないように、結婚している方や子どもがいる方は事前に共有しておきましょう。
介護職に就職する際に支給される給付金について
介護職に就職すると、条件に該当する方は国から支援金が支給されたり、施設によっては多額の入社お祝い金が支給されたりするなどの優遇措置を受けることができます。大好きな介護の仕事に従事できるだけでなく、お金ももらえるなんていいこと尽くしですよね。最後に、介護職に従事する方が給付を受けることができる支援金についてご紹介したいと思います。
再就職準備金貸付事業
介護保険サービス事業所等で1年以上の勤務経験のある方で、以下の条件の全てを満たす方が介護職に復職した場合、最大40万円まで無利子で貸付があります。
- 介護福祉士の資格を持っている
- 実務者研修を修了している
- 介護職員初任者研修を修了している(既に廃止されている介護職員基礎研修、1級課程、2級課程のいずれかを修了している場合も可)
申請は都道府県福祉人材センターに氏名や住所などの届出を行い、再就職準備金利用計画書を提出する必要がありますが、貸付後に介護士として業務に2年間従事することで返済が全額免除になります。
介護分野就職支援金貸付事業
介護未経験者、または無資格で働いていた方や無職の方が介護職員初任者研修などの所定の研修を修了し、介護士として就職した場合、最大20万円までの貸付があります。こちらも就職支援金利用計画書を提出する必要がありますが、貸付後に介護士として業務に2年間従事することで返済が全額免除になります。
障害福祉分野就職支援金貸付事業
介護未経験者、または無資格で働いていた方や無職の方が介護職員初任者研修など所定の研修を修了し、障害福祉サービス事業所等において障害福祉職員として就職した場合、最大20万円までの貸付があります。こちらも就職支援金利用計画書を提出する必要がありますが、貸付後に障害福祉分野における障害福祉職員(利用者に直接サービスを提供する者)として業務に2年間従事することで返済が全額免除になります。
各介護施設が実施している入社お祝い金制度
求人の際、「入社お祝い金」と言って、採用が決定するとお祝いにお金がもらえるという求人情報があります。お祝い金の金額は千円単位のものから20万円超えのものまで様々ありますが、比較的難易度の高い資格保有者に対してはお祝い金が高額になるケースが多いようです。
お祝い金の求人は魅力的で、すぐに飛びつきたくなりますが、お祝い金を受け取るには施設側が設定した条件に合致する必要があります。お祝い金の支給には一定期間以上の在籍が条件になっているところがほとんどのようです。例えば入社後すぐに辞めてしまい、設定している在籍期間の条件を満たさない場合、お祝い金は受け取れません。また、お祝い金制度を謳っている採用サイト経由からの応募でないと、お祝い金を受け取れないなどの細かい決まりがありますので、お祝い金を受け取りたい場合には応募方法にも注意を払うようにしましょう。
入社お祝い金は黙っていてももらえるものではありません。受け取るには必ず施設側への申請が必要です。せっかく支給条件を満たしているのに、申請し忘れでお祝い金を受け取り損ねたなんてことがないようにしましょう。
今の状況を冷静に判断して無理なく働ける職場を選ぼう
介護職に復帰するにあたって、ブランクの長さや現在の状況を冷静に判断して慎重に職場環境を選ぶ必要があります。以前働いていた時とは生活環境や健康状態が変わっているため、昔と同じ感覚で仕事を選んでしまうと体力が追いつかず、体調を崩してしまうことも考えられるでしょう。復職に不安が残る方は派遣社員やパートで時短勤務から初めてみるのも一つの手です。
また、最初から夜勤をたくさん入れるのではなく、まずは日勤帯での勤務からスタートし、慣れてきたら少しづつ夜勤を入れてみても良いかもしれません。大切なのはワークライフバランスを崩すことなく働ける職場を選ぶこと。職場選びを失敗するとせっかく就職しても上手く両立できずに早期退職につながってしまうこともあります。今の自分の状況を把握して無理なく働ける勤務条件をできるだけ具体的に考えてみてください。どうしても不安が残る場合は「ブランク可」「ブランクOK」の求人を探すと、ブランクに寛容な介護施設だと分かるので安心して応募することができそうですね。