この記事のターゲット:給料をアップさせる方法を知りたい介護士もしくは介護職志望者
この記事の要約:何かとマイナスイメージが強い介護職ですが、介護職員処遇改善加算や3年に一度の介護報酬改定により、年々介護職員の処遇は改善されてきており、実績として国内介護士の賃金は上昇しています。介護職員処遇改善加算は介護士の離職率を下げ、介護職志望者の数を増やすことを目的に設置された制度で、国から得た報酬は必ず介護職員の給与に反映されます。介護職員処遇改善加算は、事業所のサービス区分とキャリアパス要件・職場環境等要件という2つの要件をどれだけ満たしているかに基づいて報酬が支払われるので、より給与の高い介護施設で働きたい場合は施設の教育制度や賃金体系にも注意を払うと良いでしょう。介護職員処遇改善加算とよく似た名称の「介護職員等特定処遇改善加算」というものがありますが、こちらはキャリアが長い介護職員をメインに、給与アップを目的とした政策となります。令和3年度介護報酬改定により、要件の見直しや配分ルールの柔軟化が行われ、より介護士の処遇が改善されるよう、今後も改定が繰り返される見込みです。
介護サービス事業所における人手不足感は年々強くなってきており、特に訪問看護の分野において人手不足が深刻化しています。
平成30年8月時点での介護職の有効求人倍率は3.97であり、圧倒的な売り手市場が続いています。にも関わらず、介護事業所の採用難が続いているのは何故なのでしょうか。
長崎県福祉保健部福祉保健課が平成26年度に実施した「介護の仕事のイメージについてのアンケート調査」によると「給与など雇用面での待遇が悪い」「体力・精神的にきつい」という理由だけで全体の81.6%を占めており、介護職に対するマイナスイメージはまだまだ根強く残っているようです。しかし、実際には2012年に運用が開始された介護職員処遇改善加算や3年に一度の介護報酬改定により、年々介護職員の処遇は改善されてきており、この制度によって2009年から2017年までの8年間で介護職員の賃金は月額平均5.7万円も上がっています。
2019年には介護職員等特定処遇改善加算の制度も新設され、介護職員の給与は今後も上昇する見通しです。今回は介護士を目指す人なら知っておきたい処遇改善加算や特定処遇改善加算、さらに令和3年度介護報酬改定による変更点について解説します。この仕組みを知ることによって自分の給料がどこから発生しているのか、給料アップを目指すにはどうしたら良いのかを知ることができるので、これから介護士を目指す方は是非本記事をご参考ください。
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介護職員処遇改善加算とは
「安い・辛い」と言われることの多い介護職ですが、実際には、「介護職員処遇改善加算」によって介護士の給与は年々増加傾向にあります。
給与は仕事のモチベーションや将来のライフプランに深く関わる問題です。介護職を目指す人は、自身の給与を左右する介護職員処遇改善加算について、知識を深めておきましょう。
「介護職員処遇改善加算」ってどんな制度?
介護職員処遇改善加算とは、平成23年度までは「介護職員処遇改善交付金」という名称で実施されていた制度です。
介護職員処遇改善加算を簡単に説明するならば「キャリアアップの仕組みや職場の環境改善を行い、国から報酬をもらう」というもの。そして国から受け取った報酬は、介護職員の給与に還元されます。
制定された背景には、要介護者の増加に対し介護職員の数が少なすぎる、というのがあります。給与アップと職場環境改善を行うことで、現状、介護職に就いている人たちの離職率を下げ、若い世代に介護職についてプラスのイメージを持ってもらうのが設立の目的です。
介護職員処遇改善加算の申請に必要な要件とは?
報酬として支払われる加算額は、事業所のサービス区分と次の2つの要件をどれだけ満たしているかに基づきます。
- キャリアパス要件
- 職場環境等要件
詳しい内容を見てみましょう。
キャリアパス要件
キャリアパス要件は、介護職員の給与体系やキャリアアップを目指すための仕組みを構築したものです。
中身は、I〜Ⅲの3つの内容で分けられています。
Ⅰ…職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備をすること
Ⅱ…資質向上のための計画を策定して、研修の実施または研修の機会を設けること
Ⅲ…経験もしくは資格等に応じて昇給する仕組み、または一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること
Iは簡単に言えば役職ごとにこなす仕事の内容、さらにどの程度給与を得られるのか全職員に明らかにする、といったことを指しています。
Ⅱは、キャリアアップを目的とした研修の有無を示したものです。Ⅲでは、経験や資格に基づいて昇級ができるように定めることを記しています。
職場環境等要件
職場環境等要件とは、「現場で働く介護職員が“仕事をしやすい”と思える環境作りに尽力をしているか」という内容です。
仕事をしやすい環境とは、職員の休憩室や分煙スペースの設置、トラブルが発生した際に備えてマニュアルがあること、健康診断や心のケアの実施などが例として挙げられます。
これらの要件を多く満たせば満たすほど、得られる報酬額も高くなる傾向です。
介護職員処遇改善加算は給与に反映される?
気になるのが、介護職員処遇改善加算は給与に反映されるのか、という点ではないでしょうか。
結論から言えば、得た報酬は給与に反映されます。
介護事業所が介護職員処遇改善加算で得たお金は、介護職員の基本給や賞与、手当といった形で提供されるのが決まりです。加えて、介護事業所は自治体に「介護職員処遇改善実績報告書」の提出が義務づけられています。
つまり、不正はできず、得た報酬が介護職員に未払いになるといったことはないため、安心してください。
介護職員処遇改善加算の申請状況
介護職員処遇改善加算の申し立ては義務ではありません。そのため、自分が働く施設・事業所が届け出をしているのか気になるのではないでしょうか。
厚生労働省が公開している資料によると、7,346施設・事業所のうち93.5%が届け出をしています。
ほぼすべての介護施設・事業所が提出をしているため、ご自身が働く職場も高い確率で介護職員処遇改善加算を申請していると言えるでしょう。
介護職員等特定処遇改善加算とは
介護職員処遇改善加算とよく似た名称の「介護職員等特定処遇改善加算」というものがあります。こちらはキャリアが長い介護職員をメインに、給与アップを目的とした政策です。
長く介護職を続けていれば関わる機会が訪れる制度であるため、これから介護職を目指す人は、知識として覚えておきましょう。
介護職員等特定処遇改善加算の仕組み
介護職員等特定処遇改善加算を申し出ることで、介護職員処遇改善加算に上乗せをした報酬が与えられます。
制定の背景にはキャリアを積んだ介護職員のモチベーション向上、さらに若い介護職員が将来に希望を持って働けるように、といった狙いが含まれています。
介護職員処遇改善加算と介護職員等特定処遇改善加算の違いは、給与アップのターゲットがベテランに絞られること。それに伴い取得条件や配分ルールにも違いがあります。
介護職員等特定処遇改善加算の取得要件
介護職員等特定処遇改善加算の取得要件は、下記の3つです。
- 介護職員処遇改善加算Ⅰ~Ⅲまでを取得していること
- 介護職員処遇改善加算の職場環境等要件に関し、複数の取り組みを行っていること
- 介護職員処遇改善加算に基づく取組について、ホームページへの掲載等を通じた見える化を行っていること
要件を満たしていれば、「加算Ⅰ」「加算Ⅱ」の2段階で追加の報酬を受け取れます。
介護職員等特定処遇改善加算の配分ルール
介護職員等特定処遇改善加算の主な目的は、ベテラン介護職員の給与アップです。そのため、得た報酬の配分もベテラン介護職員に多く分配されるように定められています。
では、「多くの分配」とはどの程度の割合なのか、分配の内訳について見てみましょう。
規定では、配分される職員は「A(ベテラン介護職員)・B(その他の介護職員)・C(その他の職員)」の3つに分類されています。
そして報酬額の内訳は、中間職であるBを基準にして、「A=2」「B=1」「C=0.5以下」としていました。つまり、ベテラン介護職員はその他の介護職員の2倍にあたる報酬を受け取れる仕組みです。
ところがこの配分ルールではさまざまな問題が起きたことから、2021年の介護報酬改定では配分のルールが変更されています。
介護報酬改定については、後の項で解説します。
介護職員等特定処遇改善加算の申請状況
介護職員等特定処遇改善加算の申請状況は、厚生労働省の「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」にて、公開されています。
これによると、7,346施設・事業所のうち63.3%が介護職員等特定処遇改善加算の申請をしていることがわかります。
介護職員処遇改善加算に比べて届け出の数値が低いのは、「賃金改善の仕組みを設ける事務作業が煩雑なため」「職種間の賃金バランスがとれなくなることが懸念されるため」というのが理由として多いようです。
ベテラン介護職員の給与アップを目的とした制度であるにも関わらず、給与額に差が出るのを避ける必要があるのは皮肉なものですが、事業主の立場からすれば職場の人間関係も考慮したうえの苦渋の決断だと言えるでしょう。
令和3年度介護報酬改定について
令和3年度に入り、介護報酬改定が適用されました。これにより、介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算、両方の配分ルールや職場環境等要件等に関わる内容も変化することに。
詳しい変更内容について、見てみましょう。
特定処遇改善加算の介護職員間の配分ルールの柔軟化
これまでの介護職員等特定処遇改善加算では、「A(ベテラン介護職員)・B(その他の介護職員)・C(その他の職員)」の3つに分類され、それぞれ「A=2」「B=1」「C=0.5以下」の割合で報酬が支払われていました。
ところが、この配分では職種間で金額格差が出てしまうことや、それによって人間関係に影響が生まれることも少なくなかったのが実情です。そのため、あえて介護職員等特定処遇改善加算を申請しない施設・事業所が多くありました。
これではベテラン介護職員のモチベーションアップ、若い世代が将来に希望を持てるように、という当初の狙いからそれてしまう可能性が否定できません。
そのため、介護報酬改定では配分ルールが柔軟化。「A(ベテラン介護職員)」と「B(その他の介護職員)」が受け取れる金額差を「2:1」と定めるのではなく、「AはBよりも高く報酬を受け取れば良い(割合の規定はなし)」として、より柔軟な報酬配分を推奨しています。
職場環境等要件の見直し
介護職員処遇改善加算における、これまでの職場環境等要件では、 職場環境の改善をするために過去にどのような取り組みをしてきたのかを重視していました。
しかし重要なのは「過去ではなく現在の取り組みなのでは」という声が上がったことから、「当該年度の取り組み」に関してスポットが当たる仕様に変更されています。
職場環境等要件の見直しはそれだけではなく、これまでの「職場環境等要件の取組内容」として資質の向上・労働環境&処遇の改善・その他の3つの大区分が、6つに増加。さらに6つの中から3つの大区分を選び、それぞれで1つ以上の取り組みを行うのが、新たな申請条件とされています。
介護職員処遇改善加算(Ⅳ)(Ⅴ)の廃止
介護職員処遇改善加算は5段階に分けて、得られる報酬額が決まっていました。
しかし改正後は、3段階に変化。1番下のレベルとされている、護職員処遇改善加算(Ⅳ)と(Ⅴ)が廃止されています。
廃止の理由は、 介護職員処遇改善加算(Ⅳ)と(Ⅴ)を算定している施設・事業所はとても少ないためと考えられます。しかし 介護職員処遇改善加算(Ⅳ)と(Ⅴ)を取得しているところもゼロではありません。当該する施設・事業所には、「上位の区分になるように、厚労省が働きかける」とし、より高い報酬が得られるようにサポートをする方針となっています。
まとめ
世間が持つ介護士の報酬は、「安い」というイメージがまだまだつきまとっています。実際には制度を活用することで年々報酬が上がっていますが、介護職についていない人にとって知る機会は少ないと言えるでしょう。
さらに、今後も介護職員の報酬、および職場環境の改善が国によって見込まれる可能性が多いにあります。もし報酬面で介護職の選択を迷っているようでしたら、ご説明した制度があることを思い出してみてください。